あらすじ

――令和八年、東京。 感染症内科医・高峰 結(たかみね ゆい) 三十二歳。三日連続の当直明け、コンビニのおにぎりを片手に倒れたところまでは覚えている。 次に目を開けたら、なぜか天井は煤けた茅葺き。手は驚くほど小さく、髪は栗色がかっていて――鏡に映ったのは、人形のようなかんばせをした、異国の血を引く十三歳の少女だった。 「……は? いや、待って。これ、シーボルトの娘じゃない?」 結が転生した先は、嘉永二年(一八四九年)の伊予国卯之町。シーボルトの忘れ形見にして、のちに〝オランダおいね〟と呼ばれる少女、楠本イネ――その人だった。 女が医者になることなど、誰も許してはくれない時代。混血ゆえの好奇の視線。母を待たせる長い修業。それでも結のなかの「医者の魂」は、目の前の病人を見過ごせない。 折しも卯之町では、原因不明の急死者が相次いでいた。村人は「夏のころり(コレラ)が来た」と怯えるが、その症状は、結の知る医学知識のどれにも、ほんの少しずつ合致しない――。 蘭方医の師・二宮敬作。寡黙な宇和島藩の若き蘭学徒・伊織。やがて長崎へと続く道の先に、ポンペが、父シーボルトが、そして時代の大津波が待ち受ける。 「面倒くさい。本当に面倒くさいけど――診ないで放っておくのは、もっと面倒くさい」 これは、薬箱ひとつを抱えた令和の女医が、幕末の日本で「病」と「毒」と「人の業」を診たてていく、一筋縄ではいかない診察録。

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小説を読もう2026/06/03
  • 現在の作品『蘭方おいねの診察録』 〜令和の女医、幕末で薬と毒の謎を診たてます〜