あらすじ
竜が死ぬ夜、世界には雪が降る。
それは祝福ではない。竜の骨が灰となって降る、葬送の雪だった。
王都リュミナスの大聖堂で、施療院の下働きだった少女リリア・エル・ミゼリアは、救国の聖女として祭壇に立たされる。
命じられた役目はただひとつ。
王国最後の竜――始祖竜アルヴァレイトを殺し、その心臓を“浄化”すること。
けれど、リリアは聖女ではなかった。
奇跡など使えない。聖女のふりをして、丁寧な嘘で息をしてきただけの少女だった。
それでも、竜を殺すための嘘だけはつけなかった。
「私は、聖女じゃありません」
処刑台の上でそう告げたリリアは、竜の胸に打ち込まれた聖具《太陽釘》を砕く。
黒い炎が大聖堂を裂き、始祖竜は小さな黒竜の姿となってリリアの腕に落ちた。
その夜、空から月が消えた。
王国はリリアを追う。
神殿は彼女を災厄と呼ぶ。
やがて世界中に《世界月還令》が発令され、リリアとアルヴァレイトは“月を戻す鍵”として、国々、商人、傭兵、魔女狩り、そして月に眠らされていた古い獣たちから狙われる。
月を戻せば、世界は救われるのか。
それとも、また誰か一人を棺にして閉じるだけなのか。
竜を殺せなかった偽りの聖女と、嘘を抱えた始祖竜。
これは、月のない世界で、犠牲ではない救いを探す旅の物語。