あらすじ
休日、夜の電車内。車内はどこか気だるい静けさに包まれていた。
乗客の数はまばらで、皆、座席に深く腰を沈め、背もたれに体を預けている。ネクタイを緩めた会社員、スマートフォンをぼんやり眺める学生、首を垂らして揺れに身を任せている女性、肩を寄せ合う親子連れ。どの顔にも一日の終わり特有の疲労が滲んでいた。
窓の外を流れていく街並みも、ほとんど眠りについている。等間隔に並ぶ外灯の光や、ぽつぽつと灯るマンションの明かりが、暗い車窓の向こうでゆっくりと後ろへ滑っていった。
やがて電車は速度を落とし、低く唸るような音を立てながら駅に滑り込んだ。軽い振動とともに停止し、ドアが開いた。
「ああ……」と小さく声を漏らして席を立つ会社員。まだ半ば夢の中にいるような顔でふらりと立ち上がる女性。乗客たちは静かに電車を降りていく。この心地よい空間から離れることをどこか惜しむような足取りだった。
そんな、いつもの夜の光景。車内は穏やかな空気を保ったまま、また一人、新たな乗客を迎え入れる――と、そのときだった。