あらすじ
*登場人物
真里:家族の趣味を見守りつつ、自分も台所道具に夢中な語り手。
和幹:お金に厳しい父。家族の趣味代を「沼費」と呼んで管理している。
瑠倭:祭り飾りが好きな兄。明るく場を盛り上げる。
芭菜:古地図が好きな妹。昔の水路や土地の記録に詳しい。
丈哉:結び方を学ぶ弟。行動が早く、泥の中でも頼りになる。
恭生:誰にでも優しい幼なじみ。少し浅い発言で場を和ませる。
母:和幹の若い頃を知る、家族の中心にいる人。
*あらすじ
真里の家では、趣味に使うお金を父の和幹が「沼費」として厳しく管理している。祭り飾り、古地図、結び方、台所道具。家族それぞれが小さな沼に足を取られながらも、にぎやかに暮らしていた。
ところがある晩、和幹が電話で「沼の件ですね。明日の朝、現金で」と話すのを真里たちは聞いてしまう。お金に厳しい父が、家族に黙って沼へ現金を持っていく。心配した真里たちは、航行用水路沿いに父を尾行する。
たどり着いた蓮見沼で明かされたのは、父が若い頃にしていた「ちょっとした冒険」。浴槽を舟にして水路を下り、母へ赤い櫛を届けようとしたものの、浅瀬で沈んでしまったという泥だらけの思い出だった。
沼さらいを手伝ううち、家族は父の不器用な愛情に触れていく。底なしに見えた沼は、水深三十センチの浅瀬。けれどそこには、三十年分の笑いと、家族が手をつなぐ温かさが沈んでいた。