あらすじ
「お兄ちゃん、アメリカ行きたい!」
あの時、妹の我が儘を笑って受け入れなければ、今も四人で温かい食卓を囲んでいたのだろうか。
中学二年生の花瀬凪途(はなせ なぎと)の日常は、家族旅行先のニューヨークで一瞬にして崩壊した。
到着した初日の夜、ホテルの床に倒伏していた両親。搬送先の病院で告げられたのは『原因不明の突発性心臓麻痺』という、現代医学の敗北を告げる冷徹なカルテだった。
さらに絶望は重なる。両親の死亡手術の最中、待合室のベンチから、小学生の妹・渚(なぎさ)が煙のように姿を消した。病院中の防犯カメラのどこにも、彼女の痕跡は写っていなかった――。
天涯孤独の身となり、呪われた地から逃げるように日本へ帰国した凪途。
しかし、運命の悪意は止まらない。身を寄せた香川の実家で、両親が遺した海外赴任保険と生命保険、合わせて『1億4000万円』という血の滲むような巨金が手に入ることを知る。だが、その遺産管理を引き受けたはずの叔父は、凪途の手元にわずか200万円だけを残し、大金と共に夜逃げ同然で失踪した。
両親の怪死、妹の失踪、肉親の裏切り。
五感を鋭く刺すような圧倒的な孤独と自分への後悔に、凪途の精神は限界を迎えていた。
引き取られた東京の地で、ただ死んだように息をするだけの毎日。
そんな泥濘(ぬかるみ)のような日々に光を差したのは、新しい学校で出会った少女・白瀬陽南(しらせ ひな)だった。
「――全部、僕のせいなんだ。僕がみんなを不幸にした」
誰も信じられなくなった凪途が、衝動的に彼女へすべての地獄を打ち明けた、その瞬間。
凪途の身体を縛り付けていたどす黒い重圧が嘘のように消え去り、白黒だった世界に鮮やかな色彩が戻った。
だが、それは救いなどではなかった。ただの『生贄の交換』に過ぎなかったのだ。
その日を境に、陽南の周囲で不自然な小事故が多発し始める。
物を無くす、怪我をする、そして――彼女の家族の身に迫る、あの夜と全く同じ『不穏な影』。
凪途を蝕んでいた、関わる者すべてを破滅させる【不可解な不幸の現象】は、あろうことか恩人である陽南へと転移してしまっていた。
僕に陽南はかつての僕のような顔であの時と逆の立場で僕に悩みを打ち明かした。
僕は血の気の引いた顔で微笑む少女を、これ以上傷つけさせはしない。
奪われた1億4000万の行方。アメリカに消えた妹の安否。そして、大切な人と自分を死に至らしめる呪いの正体。
すべてを取り戻すため、少年はもう一度、自ら地獄のどん底へと這い戻ることを決意する。
これは、世界から「幸せ」を拒絶された少年が、運命という名の怪物に牙を剥く、凄惨で切ないボーイミーツガールである。