あらすじ

黒鴉として活動した年数――十二年。倒した魔物の数――三千八百四十七体。そして今日、娘のリリィが寝起きから家を出るまでにつまずいた回数――三。  かつて伝説のS級冒険者「黒鴉」と呼ばれた俺は、終戦の日に先代魔王を斬り、その戦場で泣いていた魔王の娘リリィを拾った。それから五年。今の俺は、辺境の自由都市エルメンディアの郊外で薬草を育てる、ただの三十八歳のおじさんだ。それでいい。リリィが笑って、薬草が育って、たまに古傷が疼くくらいで。  だが、リリィは俺を「世界一強いパパ」と信じて疑わない。そして困ったことに、その娘は――街の不良冒険者も、森のゴブリンの群れも、「パパを守るため」に、ほんの数秒で気絶させてしまう。本人は「ちょっと、ぱぱぱって、しただけ」と笑うだけ。五歳児が、だ。  俺は娘の異常さを世間に隠したい。普通の子として育てたい。それだけなのに、噂は勝手に広がっていく。領主令嬢ミレイアは俺の正体に気づきながら、何も言わずに見守ってくれる。だが、王都の追跡組織〈白鳩局〉の追跡官ティスラ――五年前に消えた俺を、ずっと捜し続けてきた旧友は、ついに辺境への派遣を申請した。  そして魔族領からも、魔王の娘の血を狙う追手〈灰狼隊〉が迫る。リリィが攫われかけたその夜、俺は五年ぶりに封印した「黒鴉」の力を解き放つ。娘を守るために。  将軍補佐ヴェルクを一撃で退け、辺境の空に黒い翼を広げた俺を見て、人々は口々に叫んだ。「神域の隠者だ」「神の化身だ」と。隠居したかっただけの男は、こうして世界一の伝説として祭り上げられてしまった。残されたのは、魔王の血筋を抹消せんとする将軍ザルガの影と、リリィの「あのおじさん、リリィのこと、しってたみたい」という一言だけ――。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
カクヨム
カクヨム2026/06/02
  • 現在の作品『私のパパは世界一強い』〜引退した元最強冒険者の俺は、拾った魔王の娘に勝手に証明されて『神域の隠者』として伝説になる〜