あらすじ

夜、灯のともる下で、人はいくつもの影を曳く。その薄い影の群れに、ときおり、誰のものでもない一枚が紛れ込む。声で呼ばれ、応えてしまった者は、もう、帰らない。  怪異を狩り、その首を椿のごとく落とす女がいる。守り刀ひとふりで、恨みも未練も、ことごとく銭に変える——その稼業ゆえ、人は彼女を〈黒椿〉と呼んだ。足音、晒し、終電、ただいま。市井にひそむ怪異は、いずれも、誰かの断ちがたい執心のかたち。名のあるうちは、斬れる。女は今宵も、無造作に、ひとつの花を落とす。  されど、その胸の裡にも、ただひとつ、断つことのできぬ名がある。かつて、夜の影に攫われた恋人。名を呼べば、斬れる。されど呼ぶことは、永久の別れにほかならない。増えてゆく影を数えながら、女は、灯の下を、ひとり歩く。  翁の言祝ぎに始まり、序破急の調べを経て、鬼の切能に至る——和の様式に現代の闇を盛り、一話ごとを都々逸の一句に結んだ、幽玄の怪異連作。

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カクヨム
カクヨム2026/06/01
  • 現在の作品創作能楽小説『黒椿』 翁付き五番立て