あらすじ

西日本に伝わる怪異譚 関西地方の古い言葉で、おなかが減ったことを「ひだるい」といいます。漢字で書くと「饑い」。あまり見たことのない漢字ですね。もう今はこういう言葉を使う人も多分居ないでしょう。 この「ひだるい」に関して、西日本一帯の言い伝えに「ひだる神(ひだるがみ)」というのがあります。憑き物や妖怪の類のものでしょう。旅人などが歩いていると、この「ひだる神」に憑かれるのだそうです。すると突然猛烈な空腹や疲労を感じて、手足が麻痺したり身体が動かなくなって、その場に倒れてしまうというのです。 行き倒れた旅人などの無念の霊が怨霊になって、通りかかった人を引きずり込む。昔の人はそう考えました。 紀伊半島の内陸部はとても山が深く、主要な国道でさえ夜になると真っ暗です。ヘッドライトの光は底なしの闇に吸い込まれ、真っ暗なルームミラーはなにも映しません。現代でもそうなのですから、まして電灯などのない頃にはもう、まさに「鼻をつままれてもわからない暗闇」だったことでしょう。そんな秘境とも言える地域ですが、そこには大峰山や熊野三山など霊場や寺社もたくさんあって、古くから人々が山々を往来していました。 そんな紀伊半島の、熊野本宮大社から熊野那智大社へ向かう古道に、大雲取越えという難所があったそうです。その近くには大雲取山と小雲取山という二つの山があって、その間には餓鬼穴という深い深い穴があったといいます。通りかかった人がその穴をのぞき込むと、必ずこの「ひだる神」に憑かれてしまう、というお話がいまに伝わっています。 人里離れた山の中、憑かれるともうにっちもさっちもいかない。ひだる神は命取りになるようなおそろしい憑きものでした。

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小説を読もう2026/06/01
  • 現在の作品ヒダル神(ヒダルがみ、饑神)は、人間に空腹感をもたらす憑き物