あらすじ
由緒ある薬種問屋の娘でありながら、剣術も勉学もできず「我が家の恥晒し」として地下室に幽閉されて育った少女・暦(こよみ)。
しかし彼女には、あやかしを視る不思議な瞳と、暗闇の中で貪り読んだ異常なまでの薬学の知識があった。
ある夜、暦は年の離れた優秀な兄が、新薬の実験のために傷だらけにしたあやかしを目撃する。
「ただの実験体だ」と言い放つ兄に、いつもはおっとりした暦の怒りが爆発した。
「いい加減にしろ。命を何だと思っているんだ!」
兄の頬をひっぱたき、あやかしを抱きしめて実家を飛び出した暦。
迷い込んだ山で彼女を待ち受けていたのは、山の主である大天狗の一人だった。
天狗の医師すら匙を投げた呪いの傷を、暦はその瞳と知識で鮮やかに癒やしてみせる。
「居場所がないなら、ここで薬師として働け」
行くあてのない暦は、天狗の城の『かりそめ薬師』として雇われることに。
最初はビジネスライクだった不器用な大天狗と、命に真っ直ぐな暦。二人の距離は、帝都の闇を癒やす日々のなかで、少しずつ変化していき――。
不遇な薬師の少女がその腕一つで未来を切り拓く、和風あやかし診療譚、開幕。