あらすじ

「わたくしも、大好きですよ。わたくしの、可愛い妹」  豊正三年。  蒸気の力で稼働する有人人型兵器・蒸甲機によって徳川方が豊臣方に敗れた大坂夏の陣から百年。  日ノ本は未だ西の関白家と東の将軍家により分断され、両家の抗争が続く乱世の真っ只中にあった。  三月、蒸甲機の開発で遅れをとった徳川は、東国で唯一徳川に恭順せず独立した地位を保ち、豊臣にも劣らない蒸気技術を有する美園家の領地へと侵攻を開始。その高い技術力を我が物とせんとする徳川の圧倒的な物量を前に、美園は徐々に追い詰められてゆく。  かような状況下、美園の精鋭蒸甲機部隊・花守衆の一人である時雨はその卓越した操縦技術を以て徳川の大軍勢と対峙していたが、美園領の中核・桜木城へ突如として呼び戻される。戦力が不足する中での呼び出しを訝しむ時雨だったが、彼女を呼んだのは、かつて捨てられた赤子だった時雨を拾い、本当の姉妹のように育ててくれた美園の長女・春深であった。  春深は、美園が間もなく滅ぶだろうことを告げる。そして自身が開発を主導した新型蒸甲機〈春時雨〉を時雨に見せ、その操士として一人西へ逃れることを命じるのだった。  それは時雨にとって、守り抜くことこそ恩返しになると誓った、この世の誰より深く愛する姉様を見捨てよ、と告げられているに等しい命であった。

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カクヨム2026/06/01
  • 現在の作品蒸甲機〈春時雨〉