あらすじ
東京の救命救急センターで八年間、感情を仕舞い込みながら働いてきた外科医・美原遥、二十八歳。ある夜の地震で病院ごと崩れ落ち、目が覚めると安政五年(一八五八年)の横濱だった。
宿った体は、亡き蘭方医の娘・雪野蘭。父の遺した蘭書(オランダ医学書)と解剖刀だけを財産に持つ、二十歳の薬師見習い。
港町に、恐ろしい疫病が忍び込んでいた。
「三日コロリ」と人々に恐れられる、かのコレラである。
女が医術を語れば笑われる時代。抗生剤もなく、点滴もなく、消毒さえ満足にできない時代。それでも遥は、知っていた。この流行で何十万人もの命が失われることを。そして――水一杯の配合で、その何人かは助けられることを。
やがて遥は気づく。横濱港のコレラは、自然の流行にしては広まり方が不自然すぎると。誰かが、この疫病を道具として使おうとしている。
毒に触れながらも花を咲かせる女が、幕末の闇に解剖刀を向ける。