あらすじ

灰色の霧が、いつまでも晴れない町がある。 オーヴェール。海沿いの小さな町に流れ着いた傭兵あがりの男、エヴァン・リードは、そこで奇妙な噂を耳にする。――この町では、ときどき人が「消える」。しかも、消えた本人のことを、まわりの誰ひとり覚えていない。家族も、友人も、まるで最初からいなかったかのように。 毛皮をまとった粗野な狩人アシュレイ。天国の絵ばかり描きたがる気弱な少年画家ジュリアン。穏やかすぎる薬屋。やさしすぎる神父。誰もが満たされた顔で暮らすこの町には、たしかに何かがいる。人々の苦しみを、記憶を、存在そのものを、甘い言葉とともに呑み込んでいく「何か」が。 エヴァンには、忘れられない記憶があった。腕の中で冷たくなっていった、たったひとりの妹。救えなかった後悔。だからこそ彼は問わずにいられない。――忘れることは、本当に救いなのか。苦しみを消し去ってもらうことと、その人が「いなかったこと」にされるのは、どこが違うのか。 霧の奥へ足を踏み入れるたび、町の優しさは少しずつ歪み、血と歯車の悪夢が牙を剥く。仲間が倒れ、刃が砕け、それでもエヴァンは前へ進む。なぜなら、忘れたくないものがあるから。誰かに憶えていてほしいと、声なき声で叫んでいる者がいるから。

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カクヨム
カクヨム2026/05/31
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