あらすじ

「冷酷な令嬢が笑うのは、石窯の前だけだった。」
 婚約破棄されたその日、エルゼ・フォン・ハウゼンは泣かなかった。
 王都中を震わせた冷酷な公爵令嬢が、辺境の荒れ地に追いやられても、表情ひとつ変えなかった。
 ——ただ、頭の中でひとつだけ考えていた。
 (この辺境に、石窯はあるだろうか)
 着いた初日。泣いていた見知らぬ子どもに、気づけばパンを渡していた。「明日、もっとおいしいのを焼いてあげる」と、口が勝手に言っていた。
 翌朝、夜明け前に目が覚めた。手が自然に、粉をこね始めた。
 いつか都に戻る。それは変わらない。——変わらない、はずだった。
 粉まみれで、子どもたちに囲まれて、無口な騎士に見守られながら、エルゼはいつのまにか笑うようになっていた。
 かつて王都を震わせた悪役令嬢が、今日も石窯の前で粉まみれになっている。
 これは、冷たかった令嬢が、知らないうちに温かくなっていく話。

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アルファポリス
アルファポリス2026/06/01
  • 現在の作品かつて王都を震わせた悪役令嬢は、今日も石窯の前で粉まみれになっている