あらすじ

昼の俺は、いないのと同じだ。出席で名前を飛ばされ、廊下でぶつかられても「景色」扱い。結城透、十七歳。特技は、気配を消すこと。  でも、夜は違う。日付が変わる頃、俺は匿名の声配信「ヨルの保健室」の“ヨル”になる。顔も名前も明かさず、眠れない誰かの弱音を、ただ聞くだけ。それでも、昼に誰からも必要とされない俺が、ここでだけは、誰かの居場所になれた。  ある夜、最重課金リスナー“ぽんず”が一万円を投げて、泣いた。『あなたの声がないと、眠れないの』。——その正体は、昼に俺を見向きもしない生徒会長・氷川美月。完璧で、誰にも弱音を吐けない彼女が、夜だけ、俺の声に縋っていた。  昼はゼロ、夜は満員御礼。しかも常連は、彼女だけじゃない。クラスの太陽・夏目ひなたも、無表情の才媛・四宮静も——昼に俺がいちばん遠いと思っていた高嶺の花たちが、夜はみんな、ここに素顔を預けに来ていた。  俺は、彼女たちが昼に言えない秘密を、一人ずつ知ってしまう。知っても、昼の俺にできることなんてない。それでも誰にも気づかれないよう、ほんの少しだけ彼女たちの世界を整える。そんな、ずるい関わり方しか、できなかった。  全校集会。完璧なはずの美月が、壇上で言葉に詰まる。失敗を恐れて震える彼女に、“ヨル”として贈った言葉が届く。「完璧じゃなくていい」。誰にも要らないと思っていた俺の声が、学校でいちばん遠い人を救っていた。やがて彼女は、飛ばされてばかりの俺の名前を、初めて呼ぶ。「結城くん、ありがとう」と。  昼は他人、夜は特別。その二つが、少しだけ近づいた。けれど彼女は気づき始めている——“ヨルの声”が、昼のあの子に似ていることに。来週は球技大会。高嶺の花たちが、同じ場所に集まる。これ、全員にバレたら、俺の青春、どうなるんだ?

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カクヨム
カクヨム2026/05/31
  • 現在の作品教室では空気の俺。学園の高嶺の花たちが、深夜の匿名声配信で『あなたの声がないと眠れない』と泣いてくる件