あらすじ
効率と速度ばかりが求められる現代。その喧騒から切り離されたような路地裏に、「結城修復工房」はある。夕暮れ時、街が木版画のような美しい陰影に沈むころ、店主である結城紬(ゆうき つむぎ)のもとには、訳ありの品が持ち込まれる。
嫉妬に狂って引き裂かれた手紙、後悔とともに色褪せた掛け軸、誰にも言えない孤独を吸い込んだ古い装飾品。
結城は、持ち込まれた品を伝統的な技法で丁寧に修復しながら、そこに残された古い伝承や情念を読み解いていく。彼が語るのは、古事記に記された神々の姿。嫉妬に身を焦がした女神、居場所を失い彷徨う荒ぶる神、岩戸に引きこもった光の神――。神々でさえ不器用で、泥臭く、愛おしいほどの欠点を抱えていたという事実は、現代を生きる依頼人たちの強張った心を少しずつ解きほぐしていく。
しかし、結城自身もまた、過去に蓋をした深い喪失感を抱えていた。他者の心を繕い続けた彼が、自身の「心の破れ」と向き合う時、修復という行為は痛みを伴う祈りへと変わる。
魔法のように一瞬で傷が癒えることはない。それでも、繕われた跡(金継ぎ)が新たな美しさとなるように、不器用な自分を抱えたまま、明日への一歩を踏み出すための静かなヒューマンドラマ。