あらすじ
救命救急センター勤務の外科医・結城琴音(二十八歳)は、過酷な勤務の末に命を落とした。
次に目を覚ました時、彼女がいたのは文久年間の江戸城大奥。
男子禁制の閉ざされた世界で、最下級女中「おこと」として生きることになった琴音は、二度目の人生では目立たず静かに暮らそうと決めていた。
しかしある日、将軍家ゆかりの姫君が茶席で突然倒れる。
周囲が毒殺を疑う中、琴音はそれが蕎麦による重篤なアレルギー反応であると見抜く。
現代の医療器具も薬もない状況で、彼女は即席の器具を用いて気道を確保し、姫君の命を救った。
その一件は表向きには秘匿された。
だが大奥を取り仕切る御年寄は、琴音の知識と技術に目を留める。
将軍家の威信を揺るがす病や不審死を表沙汰にすることはできない。
そこで琴音は密かに、
「裏御典医」
として働くことになる。
協力者となるのは、幕府の探索方を務める若き旗本・烏丸清継。
冷静沈着な切れ者である彼は、江戸市中や吉原、諸藩邸から情報を集め、琴音は病と毒の真相を解き明かしていく。
脚気を呪いと恐れる武家の娘。
白粉に含まれる鉛で蝕まれる花魁。
異国船がもたらした感染症。
毒殺と見せかけた自然死。
自然死と見せかけた巧妙な毒殺。
そして幕末動乱の陰で進行する、将軍家を狙う巨大な陰謀。
女が医術を学ぶことすら許されぬ時代。
それでも目の前に救える命があるなら、彼女は迷わず手を伸ばす。
これは、現代医学の知識を武器に、幕末江戸の病と謎を切り開く一人の女医の記録。