あらすじ

目が覚めると、そこは見知らぬ海辺だった。 砂浜に打ち上げられていたのは、二十代の若い娘の姿になったひとりの女性。 けれどその中身は、六十年以上を生き、病院の夜勤も、急変も、看取りも、理不尽なクレームもくぐり抜けてきた昭和生まれの元ベテラン看護師――佐伯澄江だった。 転生した先は、剣と魔法が息づく異世界。 王都では魔法医師が傷を癒やし、魔石灯が夜を照らし、貴族たちは高価な薬を求める。 しかし、彼女が流れ着いた辺境のルカ島には、そんな便利なものはほとんど届かない。 本土から船で数日。嵐の季節には外界から切り離される、小さな漁師の島。 水は井戸と雨に頼り、薬は足りず、診療所は長く放置され、島民たちは病気も怪我も「我慢」と「祈り」で乗り越えてきた。 そんな島で、彼女はひょんなことから古びた診療所を任されることになる。 「まず手を洗いなさい」 「熱がある子に根性論を持ち込むんじゃありません」 「傷を川の水で洗った? ……ああ、そう。じゃあ今からお説教と処置を同時にするよ」 若い身体に、おばあちゃんのような口調。 魔法は使えない。けれど、観察する目がある。 限られた道具で工夫する知恵がある。 患者の嘘や我慢を見抜く勘がある。 そして何より、命のそばに立ち続けてきた看護師としての経験がある。 釣り針が刺さった少年。 熱を出しても働こうとする漁師。 迷信を信じて薬草を飲みすぎた老人。 出産を前に不安を抱える若い母親。 本土から来た役人、頑固な薬草師、祈ることしかできないと悩む神官。 一人、また一人と診療所の扉を叩く島の人々に、彼女は時に叱り、時に笑い、時に寄り添いながら向き合っていく。 どれほど世界が広くても、彼女がまず守りたいものは変わらない。 今日の水を沸かすこと。 傷口を清潔にすること。 温かい粥を食べさせること。 眠れない患者のそばに座ること。 そして、お腹をすかせたドラゴンに魚を食べさせること。 魔法では救えない命がある。 奇跡では支えられない暮らしがある。 だからこそ、海辺の小さな診療所には今日も灯りがともる。 昭和生まれの元ベテラン看護師が、異世界の辺境で島の命と暮らしを支えていく、 あたたかく、少しにぎやかで、時々お腹が空く、海辺の医療スローライフ・ファンタジー。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
小説を読もう
小説を読もう2026/05/31
  • 現在の作品海辺の小さな診療所 〜昭和生まれの元ベテラン看護師は、今日もドラゴンを養っている〜