あらすじ

二十八歳の営業職、恭輔は、いつも平均より少し上の場所で生きてきた。仕事は悪くない。恋人もいた。部屋には週末だけ誰かの体温が増え、月曜になればまた元に戻る。何も壊れない日々は穏やかで、正しくて、どこまでも静かだった。 けれどある夜、恋人は言う。 「あなたは、私がいても困らないし、いなくても困らない。それが、たぶん一番さみしい」 別れのあとも、世界は変わらなかった。朝は来る。仕事は進む。メールは届く。自分がいなくても会社は回り、彼女がいなくても部屋は片づき、人生は何事もなかったように続いていく。 そんな恭輔の前に現れたのは、よく笑う一歳年下の写真家だった。自由奔放で、軽やかで、壊れることを少しも恐れていないように見える男。けれど彼は、かつて愛する人を事故で亡くしていた。最後の朝、「いってらっしゃい」を言えなかったまま。 壊れないように何も持たなかった男と、壊れてもなお愛した時間を抱えている男。二人はやがて、北海道へ向かう旅に出る。恭輔の生まれた町・釧路へ。 幼い頃、母の部屋に吊るされていたスパンコールのドレス。夜より先に部屋へ落ちてきた星のような光。母に言えなかった言葉。選ばなかった人生。持てなかったものたち。 これは、居ても居なくてもいいと思っていた僕が、僕らがそれでもここにいる理由を探しに行く物語。 置き去りにした人生を拾いにいく。

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カクヨム
カクヨム2026/05/30
  • 現在の作品おやすみ、スパンコール