あらすじ
怪異は災害ではない。
都市を維持するために必要な“インフラ”だった。
政府監督下で怪異を管理する組織――境界環境整備機構《BEC》。
そこでは学校怪談、駅の異常、ネット都市伝説までもが、認知率や契約によって維持・運用されている。
ある夜、BEC地下保管区画で発見されたのは、記録にも記憶にも存在しない未分類怪異だった。
名前はない。
姿も固定されない。
相手の認識に合わせて姿も声も揺らぐその怪異は、社内で仮に《Null》と呼ばれる。
だが奇妙なことに、BECの記録はこう告げていた。
――対象は以前より保管済。
誰も知らないのに、最初からそこにいた怪異。
終電後の存在しないホーム。
削除済みSNSに残る「まだ名前がない」という投稿。
そして、記録から消された真名。
都市の裏で働く怪異たちと出会いながら、名前のない怪異は自分の存在理由を探し始める。
これは、怪異を退治する物語ではない。
街の境界を守る怪異たちと、“自分が何者か分からない怪異”の存在証明の物語である。