あらすじ
「おーい! へい!」
とある夜。人けの少ない通りで、男が車道へ身を乗り出すようにして、大きく手を振ってタクシーを呼び止めた。ゆっくりと車体が寄る。ヘッドライトの白い光が男の全身を照らし、酔いで赤らんだ顔が浮かび上がった。男は眩しげに目を細めながら、「早く早く」と急かすように手招きした。
ドアが開くと男は後部座席に滑り込み、ドカッと腰を下ろして大きく息を吐いた。シートが沈み込み、ぎゅっと擦れる音が車内に溶けた。
目的地を告げると、男は首をぐりぐりと揉み「ああ……」とまた大げさに息を漏らした。
タクシーは静かに走り出した。
しばらくして、車内にエンジンの音だけが満ちた頃だった。男はちらちらとルームミラー越しに運転手を見やり、にやっと笑った。そして少し身を乗り出した。
「ねえ、運転手さん」