あらすじ

黒板消しの粉が雪のように舞うと、近いうちに誰かが泣く――そんな噂を、宮田はただ一人本当だと知っている。粉の舞い方は感情の前触れであり、量や滞空時間によって悲しみの大きさまでわかる。彼は一年間、その現象を観察し記録し続けてきたが、予感は一度も外れたことがない。しかしそれは未来を変える力ではなく、ただ「誰かが泣く」事実を知るだけの無力な予兆でもあった。  そんな中、クラスの中心的存在である桜井美咲の周囲だけ、常にうっすらと粉が漂っていることに気づく。明るく誰にでも優しい彼女だが、宮田の目には“泣く予感の中にいる人”として映っていた。文化祭で演劇『星の王子さま』の主演を務めることになった美咲は、仲間を支えながら完璧な演技を見せる一方、進路と家庭の事情に苦しんでいた。大学進学を望みながらも、経済的理由で就職を迫られている現実を、誰にも打ち明けられずにいたのだ。  文化祭当日、舞台は大成功を収め、美咲は笑顔で拍手に包まれる。宮田は予感が外れたのではないかと安堵するが、後夜祭の最中、美咲の姿が消える。探し回った末、彼は誰もいない教室で一人泣き崩れる彼女を見つける。そこで初めて、美咲が抱えていた苦しみと本音を知る。粉は未来ではなく、表に出せない感情が先に漏れ出たものだったのだ。  宮田は何もできず、ただ彼女の隣に座ることしかできない。それでも、その時間は確かな意味を持っていた。やがて彼は理解する。予感とは出来事を当てるためのものではなく、誰かの見えない心に気づくためのものだと。以後、記録をやめた宮田は、誰かが泣きそうなときに寄り添うことを選ぶ。黒板消しの粉は今日も舞い続けるが、その光景はもはや不吉な予兆ではなく、誰かの心に触れるための静かなサインとなっていた。

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エブリスタ
エブリスタ2026/05/19
  • 現在の作品黒板消しの粉雪