あらすじ
小林聡、三十四歳。
元保険会社の営業マンが、一つのセミナーをきっかけにMLM業界へ転身し、わずか五年で月収一千万・組織二百名を率いるトップセールスマンへと成り上がった男の物語である。
「人間には二種類しかいない。動かす側と、動かされる側だ」——彼はその言葉を信条に、元恋人の貯金を吸い上げ、部下を使い捨て、そして孤独な老婆の八百万円に手を伸ばした。
だが最後の獲物には、弁護士の息子がいた。
訴訟、行政処分、組織の崩壊。全てを失った男が尼崎の四畳半で知ったのは、自分がずっと追い求めていた「動かす側」という幻想が、実は誰よりも深く自分を縛る檻だったという、静かな真実だった。
栄光の眩しさと、没落の重さと、それでも夜の川沿いで缶ビールが旨かったという、一人の男の記録。