あらすじ
小股の切れ上がったいい女。奈都はそんな言葉が似合う女だ。小顔の大きな目と小さな肩。大きめの胸と括れた腰と大きめの尻。それらが奈都の容姿を際立たせた。奈都は上州倉賀野の在から千住に来たばかりで、江戸での仕事が見つかるまで、千住道(奥州街道)を隔てた、千住中村町の|口入れ屋、渡良瀬屋の向かいの旅篭、中村屋に逗留していた。
この日、日本橋小舟町の扇屋の主、麗琳堂の兼良は、麗琳堂に奉公する下女を求めて、千住の口入れ屋を二軒まわり、三軒目に入ったのが千住中村町の口入れ屋、渡良瀬屋だった。主の忠衛門は上州は高崎の出で上州から江戸に上る者達の口入れを専門に扱っている。
渡良瀬屋を訪れた兼良は番頭に、下女を求めている旨と麗琳堂の待遇を話した。
番頭は、「おあつらえ向きの者が居りますのでお待ちください」と言い、渡良瀬屋を出て向かいの旅篭中村屋から女を連れてきた。麗琳堂兼良と奈都の出会いだった。
「私は日本橋小舟町で扇屋を営む、麗琳堂の主、兼良と申します」
奈都に挨拶する兼良は、一目で小股の切れ上がったいい女の奈都に好意を抱いた。
「奈都と申します。国は、上州は高崎宿の在の倉賀野です。
奉公先を求めてこちらの御店にご厄介になっています」
奉公先を求めて江戸に出てきた経緯を話す奈都に、兼良はさらに惹かれた。
奈都は、上背があり引きしまった身体の、小唄の師匠のような粋な風貌と雰囲気の兼良に好感を抱いた。兼良と話すうちに、好感は好意に変った。互いに一目惚れしていた。
「ささっ。店先での話もなんですから、お上がりになってお話しくださいまし」
二人が意気投合したのを察し、渡良瀬屋の番頭は兼良と奈都を座敷に上げた。