あらすじ
人類はかつて、感情によって世界を滅ぼしかけた。
気候崩壊、魔力暴走、AI戦争――。
旧文明末期、人類は「自由すぎる感情」が引き起こした“感情共鳴災害”によって文明の大半を失う。空は黒く染まり、海は沸騰し、都市は炎に沈んだ。
その破滅を経て築かれたのが、現在の「最適化文明」である。
感情は管理され、
職業はAIによって出生時に決定され、
空の色すら気候制御塔によって調整される。
魔法もまた、かつての「祈り」ではなく、国家管理された数式演算技術へと変貌していた。
高度気候制御都市《第四学区》で暮らす少年レン・ハヅキは、魔法演算学院に通う平凡な学生だった。
ただ一つ、“感情ノイズ”を除いては。
詠唱中、感情が混ざる。
数式が乱れる。
誰にも聞こえない蝉の声が聞こえる。
存在しないはずの夕焼けを見る。
そしてある日、授業中に発生した異常魔法反応によって、レンは「旧文明型魔力波形」の適性者として記録されてしまう。
隔離対象。
危険因子。
文明の再崩壊を引き起こしかねない存在。
だがレンは知ってしまう。
自分の中で揺らめくその力が、失われた旧時代の「祈り」に繋がっていることを。
かつて人々は、数式ではなく願いによって魔法を使っていた。
空を見上げ、
風を感じ、
死者を悼み、
誰かの幸福を祈ることで、世界と繋がっていた。
しかしその力は、同時に世界を壊した。
文明を守るため、人類は感情を封印したのだ。
レンはやがて、都市の地下に封印された旧文明アーカイブと、歴史から抹消された“失われた職業”の存在を知る。
詩人。
巫女。
語り部。
葬送師。
星読み。
それらはすべて、人間の「感情」を扱う者たちだった。
世界はなぜ、ここまで人間性を恐れるようになったのか。
そして、
便利さと引き換えに失われたものは、本当に不要だったのか。
静かで正しすぎる世界の中で、
レンは“ノイズ”として生きることを選び始める。
これは、
完璧に管理された文明の奥底で、
忘れ去られた「祈り」を掘り起こす物語。
そして、
「それでも人間を信じられるか」
を問う、
終末後ファンタジーである。