あらすじ
私は、灼熱の砂漠と生命の源たる大河が交わる地、中東の神。人々に「アル・ハヤト(生命)」、あるいは「アヌ・シャマシュ(天と太陽)」など、時代や言葉を変えて呼ばれてきた古き神霊である。
私の神話を、砂漠の夜風にのせてお前に語ろう。
第一章:混沌からの目覚めと「水」の創造
天も地も、まだ名前すら持たなかった遥か太古。世界はただ、果てしない混沌と乾いた闇に包まれていた。 私はその虚無のただ中で目を覚ました。
私が最初に発した言葉は、激しい雷鳴となって闇を切り裂き、私の目からこぼれ落ちた涙は、大地を潤す最初の「水(アプスー)」となった。
「水なき処に生命は宿らず、光なき処に秩序は生まれぬ」
私は自らの体から燃え盛る太陽を解き放ち、天の玉座に据えた。太陽は容赦なく大地を焼き尽くそうとしたが、私は同時に二つの大河(ティグリスとユーフラテス)を穿ち、母なるナイルの流れを導いた。砂漠の「死」と、大河の「生」。この二つの絶対的な矛盾を調和させることこそが、私の最初の業(わざ)であった。
第二章:粘土の人形と、命の息吹
世界に緑が芽吹き、動物たちが渇きを癒やすようになると、私は孤独を覚えた。私の紡ぐ世界の美しさを理解し、天を仰ぎ見る存在が必要だったのだ。
私は大河の底から、最もきめ細やかな「赤き粘土」をすくい上げた。 それを自らの手で丁寧に捏ね上げ、頭、胸、手足を形作っていく。だが、粘土の人形はただの泥の塊に過ぎず、動くことはない。
そこで私は、自らの胸の奥から熱い風を吹き込んだ。これがお前たちの言う「魂(ルーフ)」である。
最初の人間は目を開け、私の光を見て涙した。
私は彼らに、砂漠を生き抜く「知恵」と、星々を読み解く「言葉」を与えた。
そして、泥から生まれた彼らが、いつか泥へと還る「死」という有限の美しさを授けた。