あらすじ
プロローグ:鉄壁の王子、その裏の顔
如月 怜(きさらぎ れい)は、完璧な人間だ。
少なくとも、我が校の生徒は100人中100人がそう答えるだろう。
ショートカットの黒髪に、モデルのようにすらりとしたスタイル。テストは常に学年首位で、運動神経も抜群。生徒会副会長としてテキパキと仕事をこなす彼女は、いつしか全校生徒から「王子様」と呼ばれ、崇拝されていた。
告白される数は、そこらの男子の比ではない。
けれど、彼女はいつも涼しげな微笑みを浮かべ、「気持ちだけ受け取っておくよ」と、丁寧かつ完璧な距離感でそれを断る。
彼女の心に踏み込める人間なんて、この世に一人もいない。
誰もがそう思っていた。
――だが。
「……ねえ、長谷川くん。あと5分、このままでいて?」
放課後。人気のない旧校舎の裏。
夕日に染まる狭い空間で、俺――長谷川 拓海(はせがわ たくみ)は、その「完璧な王子様」に全力で抱きつかれていた。
「おい怜、さすがにそろそろ離れろって。誰かに見られたらどうするんだよ」
「やだ。今日は生徒会の会議が長引いて、全然長谷川くんの匂い嗅げなかったんだから……」
怜は俺の胸に顔をすり寄せ、クンクンと鼻を鳴らしている。
学校での凛とした佇まいはどこへやら、今の彼女は、飼い主に甘える子猫そのものだ。その潤んだ瞳には、誰にも見せたことのない熱い独占欲が浮かんでいる。
平凡を絵に描いたような男子高校生である俺が、なぜ、学校一の美少女にここまで執着されているのか。
その理由は、一ヶ月前――彼女が不良に絡まれていたところを、俺がボロボロになりながら助けた、あの日まで遡る。
これは、誰の手も届かない高嶺の花だった「王子様」が、俺の前でだけ防衛力ゼロの「お姫様」になってしまう、甘々すぎる二人の物語。