あらすじ

私はずっと、 雨の降らない庭の花でした。 咲けと言われ、 癒やせと言われ、 守れと言われ、 ただひたすら光を差し出していたのに、 誰も私の名を呼ばなかった。 誰も私の手を握らなかった。 誰も、 「ありがとう」 より先の言葉をくれなかった。 だから少しずつ、 花びらは色を失い、 根は乾き、 心は静かに枯れていった。 それでも私は祈った。 誰かのために。 国のために。 明日のために。 けれど最後に返ってきたのは、 冷たい婚約破棄の言葉。 追放の馬車。 降りしきる雨。 泥に沈む身体。 ああ、 私の人生はここで終わるのだと思った。 その時だった。 凍える指先を包む、 大きな手があった。 「生きろ」 その一言は、 どんな魔法より温かかった。 愛されることを知らなかった私に、 あなたは毎日、 小さな春を運んできた。 湯気の立つスープ。 窓辺の花。 菫色のドレス。 ぎこちない笑顔。 不器用な優しさ。 それは奇跡なんかじゃない。 私がずっと欲しかったものだった。 愛されるたび、 胸の奥で光が生まれた。 枯れていた泉が満ちていく。 凍っていた大地に芽吹きが訪れる。 そして気づいた。 私を強くしたのは、 聖女の力じゃない。 愛だった。 誰かを信じること。 誰かに信じてもらうこと。 それが奇跡の種だった。 かつて私を捨てた人たちは、 私が失われたと思っただろう。 違う。 私は失われたのではない。 ようやく見つけてもらえたのだ。 だから今日も、 白百合の咲く庭で笑う。 私を抱き寄せる人の腕の中で。 愛されるたびに光は増し、 愛するたびに世界は優しくなる。 枯れかけた一輪の花は、 今では国を照らす朝日となった。 そして私は知っている。 本当の奇跡とは、 世界を救う力ではなく、 たった一人から向けられる、 変わらない愛なのだと。

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小説を読もう2026/05/29
  • 現在の作品愛されないと枯れる聖女ですが、隣国の冷徹王子に溺愛されて規格外に覚醒しました