あらすじ

私の名前は、もう、念のためと呼ばれない。 三年、夫の口から出るその四文字を、私は数えてきた。 朝食の白湯に浮かぶレモンの皮ほど、軽い四文字。 その朝、夫は商会の令嬢を改鋳の主任に据えた。 私の印は、最後にひとつ押せばいい、と言われた。 私は、最後の試金石を白布にしまった。 戻る先は、実家ではない。 三年休んでいた、自分の机だ。 地金の小数点は、誰の印が飾りだったかを正直に教える。 中央から来た監察使は、まず私の控えから疑った。 私はそれを当然と思い、青表紙の台帳を差し出した。 私はもう一度、どの紙に、誰の名前のために、印を押すのか。 それを、まだ、決めていない。

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小説を読もう2026/05/29
  • 現在の作品念のためと夫に呼ばれ続けて、三年目の朝が来た