あらすじ
深淵と日常の境界があいまいな街で、虚無子は静かに生きている。
返事はいつも遅い。気持ちの言語化も得意じゃない。けれど、田中という少し変な男から届くメッセージだけは、なぜか消せないままだった。
「おはよう」「生きてる?」
たったそれだけのやり取りに、意味が生まれてしまうことがある。
絶望や虚無や孤独が普通に存在するこの世界で、恋愛だけがやけに曖昧で、やけに厄介だ。
これは、既読をつけるのに少し勇気がいる女と、返信を待つことに慣れてしまった男の、
何でもないのに少しだけ特別な日常の記録。
深淵の住人たちの隣で、虚無子は今日もスマホを開く。
――その一回のタップが、たぶん一番むずかしい。