あらすじ
斬首刑に必要な時間は、およそ三秒。振りかぶり、振り下ろし、刃が骨を断つ音。それだけだ——。
処刑人リーネは、八年間ただ命じられるままに人を殺してきた。感情を殺し、名前を捨て、地下の窓のない部屋で息を潜める日々。彼女は王国の「道具」だった。
ある日、次の処刑対象が告げられる。
『黄金の獅子』ルシアン・ヴェルトール——民衆に愛された、かつての騎士団長。
その日から、奇妙な手紙が届くようになった。
『今日の空は、青かったか?』
『眠れているか?』
『お前は、笑ったことがあるか?』
差出人は、一ヶ月後に自分が斬り殺す男。
気味が悪い。捨てればいい。そう思いながら、リーネは手紙を待つ自分に気づいてしまう。震える指先で封を開け、読み終えた文字を無意識になぞる自分に。
なぜ彼は、自分を殺す処刑人に手紙を送るのか。
なぜ自分は、この男の言葉に心を乱されるのか。
処刑までの三十日間。手紙だけで繋がる、歪で切実な交流が始まる。
これは、人を殺すことしか知らなかった少女が、死を待つ男に「生きること」を教わる物語。