あらすじ
死ぬ直前まで、俺は竜の肩関節を修正していた。
嶋崎新、二十二歳。漫画家。代表作:ダークファンタジー『アッシュ・スローン』全五巻。
受賞歴:新人賞二年連続。
死因:過労。及び、妥協できない性格。
転生先は異世界の背景キャラ「トビー」——台詞なし、設定なし、物語的重力は鉢植え相当。
この世界を書いているのは、数学の授業をさぼって二次創作を書いている十四歳の女の子だ。
そして俺は知っている。
その子が何者か。
俺の代表作に「2点」をつけた、あのレビュアーだ。
俺には転生特典として『編集者の権限』が宿っている。
物語の欠陥を見抜き、赤ペンで現実を書き直す力。
だがこれは創造の力ではない。
あるものを修正する力だ。あくまでも。
彼女が書き続ける限り、世界は存在する。
彼女が書き続ける限り、俺も存在できる。
問題は——この作者、午前二時に執筆して文章の途中で寝落ちする。
完璧を追い求めて命を落とした男が、完璧には程遠い物語を守るために立つ。
そこには皮肉がある。
だが俺は、その皮肉を笑えるほどには、まだ達観できていない。