あらすじ
この世界では、死に際に抱かれた最期の執念が 「残響」 となって漂い続ける。それを聴き取ることのできる者を、人々は 「奏者」 と呼ぶ。
奏者には、残響に込められた遺志を果たす務めがある。もし果たせぬまま時を過ごせば、残響は背負う者の内側から蝕みはじめ、やがてはその精神を壊してしまう。
青年イアンは奏者だった。穢れた「忌み人」として扱われる身の上にもすっかり慣れ、人と交わることをやめ、ただ機械のように死者の遺言を取り次ぐだけの日々を送っていた。
──その日までは。
舞い込んできたのは、少女ライラの残響だった。
ライラは、イアンの身分を一度も気にかけることのなかった、特別な人だった。彼女が遺したのは、恨みでも、復讐でもない。優しすぎるほど優しい、残酷なまでに優しい、たったひとことだった──
「イアンが、幸せでありますように」
「幸せ」とは、いったい何なのか。問うたこともなかった少年は、拒むことのできないその遺言を果たすために、不器用ながら「生きること」を学びはじめる。
だがそれと時を同じくして、彼女の死の真実もまた、静かにすぐそこまで迫っていた。
罪と罰の果てに、少年がついに「幸せの意味」に触れたとき──
残響のなかに灯ったひとひらのぬくもりは、それでもすべての闇を照らすには、あまりにじゅうぶんだった。