あらすじ
赤竜が空を焼いてから三か月。
かつて交易路として栄えたエンバーフォール辺境は、いまや崩れた橋、失われた隊商、増え続ける難民、そして互いに権利を主張する勢力たちで満ちていた。
木の精霊の血を引く一級ドルイド、エイルシル・ムーンブルックは、竜火の跡に生える奇妙な灰苔を追って、グレイフォード近郊の隼橋へたどり着く。
そこでは警鐘が鳴らず、馬は橋を拒み、古い通行銭が誰にも触れられぬまま裏返る。
橋はただの橋ではなかった。
帳簿はただの記録ではなかった。
名前、骨、鐘、通行料、救済名簿。
辺境では、それらが人の存在そのものを証明している。
もし生きている者の名が、死者の帳簿に書き込まれたなら。
もし誰かの存在が、法と記憶の両方から静かに消されていくなら。
エイルシルは剣よりも観察を、断罪よりも問いを選ぶ。
まだ一級。強大な魔法も、死者を従える力もない。
それでも彼女は、沈黙した橋の下で聞いてしまう。
「通行者」ではなく、
「債務者」でもなく、
「証人」として呼ばれる声を。
災厄後の辺境を舞台に、若きドルイドが古い誓約と失われた名前を追う、TRPG風ミステリーファンタジー。