あらすじ
死亡時刻は、まだ来ていない午後十一時四十分。
区役所の夜間窓口に、一枚の死亡届が出された。
死亡者欄と届出人欄には、同じ男の名前。
医師の死亡診断書はなく、死亡場所も空欄。
受理できるはずがなかった。
それでも、その紙は窓口に残った。
翌日、その男は戸籍から消えた。
住民票からも。
家族の記憶からも。
昨日までそこにあったはずの生活の痕跡からも。
ただ一つ、受理されなかったはずの死亡届だけが残っていた。
それから、窓口には奇妙な書類が届きはじめる。
半分だけ欠けた受理印。
証人欄に浮かぶ、消えた人間の署名。
訂正印のない二重線。
名前のない診療記録。
提出者のいない白紙。
これは、悲鳴も血もない怪談だ。
人間が、書類上の不備として、手順通りにこの世から処理されていく。
窓口は、今日も開いている。
あなたの名前を書く欄だけを、空けたまま。