あらすじ
二〇一〇年、美濃に現れた「件」は、最期にこう予言した。
――私は死なない。
その言葉を聞いた人々は、なぜかそれが真実であると確信した。
民俗学を研究する非常勤講師の「私」もまた、その予言に取り憑かれた一人だった。
十五年後、遺伝子操作によって人工の件が生み出される。しかしそれは、七十六時間で死んだ。にもかかわらず、人々はその死を祀り、社を建て、観光の対象として消費していく。
一方、「私」は白血病を患う娘・えれなと、疲弊した夫との日常を送っていた。えれなは言う。「私は死なない」と。
その言葉を信じることだけが、「私」にとって現実を保つ唯一の方法になっていく。
新宿駅では、毎日のようにピンク色の服を着た男が飛び込み自殺を繰り返している。迷宮のように変貌する駅、死なない件、死なない娘、死に続ける男。
やがて「私」は、自分が信じていた予言そのものの輪郭を見失っていく。
死とは何か。
予言とは誰のものか。
そして、「私は死なない」と言い続けることは、生きることなのか。
民俗、都市、家族、信仰が交錯する、現代幻想小説。