あらすじ
「クラリス、お前のような紙切れ女に、王太子妃が務まるはずがないだろう」
王宮の薔薇園で、婚約者のオーレリアン王太子は、ヴィオレッタ侯爵令嬢の腰へ手を回しながら、私を嘲笑った。
書類整理の腕しか取り柄のない女、と。
明朝、貴族院に婚約破棄の届け出を提出する、と。
私――クラリス・フォレ子爵令嬢、22歳。
王宮書記官庁・第二記録部に所属する、最年少の正規書記官。
殿下は、私の職務をご存じない。
書記官の手を経ない口約束は、王国の正式な記録に残らない。
そして、過去5年間の王太子妃選定議事録――殿下と歴代妃候補者間の、すべての発言の記録は、私の専属管理下にある。
その日の夜、書記官庁長官モンフォール公爵閣下の蝋封が押された1通の証明書が、私の机に届けられた。
差出人は、長官閣下の甥にあたる、アンリ・ド・モンフォール伯爵令息。
彼は5年前から、書記官庁で文官修養を積んでおり――その間ずっと、私の議事録を毎朝読んでくださっていたという。
「私、たった今、自分の身の振り方を考え終わりました」
明朝、書記官庁の正面受付。
婚約破棄届に朱印を押すのは、私自身です。