あらすじ
二千五百五十五通の手紙は、一度も届けられなかった。
公爵令嬢アリシアは七年間、竜王の補佐官として仕えた。
政務を支え、茶を淹れ直し、誰よりも近くで背中を守った。
届ける気のない手紙を毎日一通ずつ書きながら。
ある日、王太子と偽聖女の陰謀で冤罪をかけられ、補佐官を罷免される。
竜王に助けを求めることもできた。
だが彼女は、竜王と王太子の対立が国を揺るがすことを恐れ、自ら身を引いた。
二千五百五十五通の手紙と補佐官の記章を机に残して、夜明け前に姿を消した。
翌朝、竜王が手紙を見つける。
一通目にはこう書かれていた。
「竜が怖いです。でも、あなたの人の姿はとても綺麗でした」
七年前の、十六歳の文字だった。
手紙を読むほどに、竜王は知る。
彼女が何を見ていたのか。
何を隠していたのか。
自分がどれほど鈍かったのか。
そして気づく。
茶の味がしないのは、茶葉のせいではない。
千年を生きた竜が、初めて人を探しに翼を広げる。
一方、彼女を追い出した者たちは、まだ気づいていない。
自分たちが何を失ったのかを。
届かなかった手紙は、届いた後に何を変えるのか。