あらすじ
帝国北西国境を十年蝕んだ戦争を、たった一閃で終わらせた英雄——辺境伯ガレン・ノートヴェルム。だが戦後の最強剣士を待っていたのは、敵将でも怪物でもなく、書類の山だった。
財政破綻寸前の辺境領、王都中央貴族からの圧迫、徴税報告書ひとつ読めない武人領主。そこへ皇帝の勅命で嫁いできたのが、「氷の公爵令嬢」リフィア・シル・セイレーン。淡紫の髪に淡紫の瞳、社交界で「冷たく、笑うことを知らぬ」と評された彼女が、馬車を降りた直後に差し出したのは——書類束ひとつだった。
「文書を整理しました。あとはご判断頂くだけです」
リフィアの能力は《魔導書記《マギ・ライブラリー》》——書類のあらゆる情報を統合し、隠された機密や戦略的価値を可視化する稀少能力。「兵を売りましょう」の一言から始まった領地再建は、領民の歓喜「奥様、貴女がいる限り、この領地は不滅だ」を呼ぶ。沈黙の魔導内政官と氷剣の領主——「辺境の双星」と呼ばれる二人の物語が、ここから動き出す。
領地は黒字化、王都派閥は反撃を企て、山民族の姫クア・ルーが「異母姉」として乱入。リフィアは初めての嫉妬を覚え、淡紫の髪先で芽生えた愛を自覚する。だが岩塩鉱脈「白の金」の発見でガレン家が主導権を握ると、王都派閥宰相は「あの辺境伯を潰せ」と密命を下した。
公爵セイレーンが領地を訪れた時、ガレンは政務から逃げず宣言する。「俺は政務は分からん。だが、リフィアと共に、彼女を、生涯かけて守る」。公爵が告げた真意——「王都派閥の腐敗を内側から崩すため、娘を辺境に逃がした。お前なら、娘を守れる男だと」。婚約は公的に承認され、辺境の双星は帝国全土に名を轟かせる。一年後、芸術都市ヴァルカンの危機を告げる旧戦友が現れた時、リフィアは静かに告げる——「絵を、売りましょう」。