あらすじ

資格四十七個を持つ二十代の星河真名は、舞台マジシャンとしての本番で大失敗し、師匠から「人前に立つのは向いていない」と言い渡される。やけになった夜、スマホで見つけた地方移住支援の広告に応募した真名は、採用を受けて神納村へ移住する。  村には、霊視能力を持つ巫女の比良坂結と、その兄で駐在警官の比良坂和也がいた。来村早々、結から「お前の後ろに何かいる」と告げられた真名は、やがて自分の背後に堕天使ルシフェルが憑いていると知る。ルシフェルは手鏡を通してしか姿を見せられず、声も真名には届かない。結だけが彼の言葉を通訳できるという、奇妙な三角関係が始まった。  真名は資格の知識を活かしながら、村の日常に次々と巻き込まれていく。猫の行方不明、畑の野菜泥棒、怪しい訪問販売業者、空き家をめぐるトラブル。トランプの手捌きで書類の差し替えを見抜くなど、マジシャンとしての感覚が思わぬ形で役立つこともあった。失敗もある。住民への説明会では、人の話を聞く前に「整理できるもの」として家を見てしまい、その場で立ち止まってやり直した。  やがて真名は、ルシフェルが東京の舞台での失敗に関わっていたことを知る。彼は真名の演技を試すつもりで少しだけ介入したと打ち明けた。真名は怒り、傷つき、それでも最終的に、あの夜が全部ルシフェルのせいではないとも分かっている。複雑な感情の中で、二人の距離は少しずつ変わり始める。  祭りの準備中、村を揺るがす事件が起きる。神社の社宝「神鏡」が盗まれたのだ。真名は結・和也・ルシフェルとともに動く中で、鏡を伏せた状態でも、ルシフェルの声が胸の内側に初めて届いた。「見るな。見せろ」。古い鐘の余韻のような低い声に、真名の手の震えが止まる。土地ブローカーと村の対立が絡んだ神鏡盗難は解決へと向かい、祭りは続いた。  祭りの翌朝、和也が真名に「また見たいです」と言う。その言葉が胸に刺さったまま、真名はルシフェルと目が合う。和也の言葉は村の朝に似ている。まっすぐで、不器用で、気づいたら日常に入ってくる。ルシフェルの存在は夜明け前の空に似ている。遠くて、届かなくて、でも気づくと背中側に光の気配だけを残している。どちらが恋なのか、まだ分からない。分からないままでも、胸が動く瞬間だけはもう誤魔化せない。  向いていないと言われた場所から逃げ、選んだ村で、真名はようやく「ちゃんと自分で失敗できる場所」を見つけていた。

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カクヨム
カクヨム2026/05/01
  • 現在の作品資格マニアのへっぽこマジシャン、移住先の村で巫女と堕天使に振り回されています