あらすじ
「証明できないものは存在しないのと同じ」
そう信じて生きてきた数学科の院生・桐島柚が、ある夜ふらりと入った古い定食屋で出会ったのは、説明できない直観で生きる料理人の中瀬透だった。
透は根拠を示せない。
でも毎回、当たる。
鯖定食を勧めた理由も、式の誤りに気づいた理由も、「うまく言えないけど」で終わる。
柚はそれを解析しようとし、メカニズムを仮説に整理しようとし、そして——気づいてしまう。
透の「そうなの?」が、二十八年間誰にも確かめてもらえなかった孤独の声だということに。
証明できないものを信じることは、無責任なのか。答えが先にあって証明が後から来るとき、最初の一人は何を根拠にしたのか。
数学には「公理」がある。
証明しなくていい、最初から真として置くもの。
柚が透を公理として置いた夜、二人の孤独は静かに終わる。
そこに愛は――。