あらすじ
凱(がい)国の都・燕京(えんけい)。下町の貧しい筆屋で生まれた娘・沙 蘭雪(さ・らんせつ)は、ただひとつ、誰にも真似できない眼を持っていた。
――他人の書いた文字から、その者の心を読み解く眼。
筆圧の震え、墨の濃淡、撥(は)ねの角度。蘭雪にとって文字とは、書き手の感情と過去そのものだった。父から受け継いだ筆跡鑑定の技で、町の揉め事を片付けて暮らしていた彼女が、ある日突然、後宮へと召し上げられる。
理由は、先帝の遺詔(ゆいしょう)が偽造されたかもしれない――その真贋を、極秘裏に見極めること。
冷徹で美しい現皇帝・凌 玄影(りょう・げんえい)から下されたのは、たった一行の命。「読め。そして、誰一人として信じるな」。
書簡が、墨痕が、刺繍された一文字が ―― 後宮に潜む嘘を、ひとつずつ暴いていく。けれど真実に近づくほど、蘭雪自身の出生の秘密もまた、滲み出すように浮かび上がってきて……。