あらすじ
クラスの太陽・桐嶋日和に、橘澪は近づかないようにしていた。
眩しすぎるものには、距離を置いた方がいい。それくらいのことはわかっていた。
でも夏休みの初日、忘れ物を取りに行った学校の音楽室で、澪は彼女を見てしまった。
誰もいない教室で、同じフレーズを何度も何度も弾き直している、日和の背中を。
クラスにいるときとは違う顔で。笑ってもいなくて。ただ、鍵盤と向き合っていた。
気づいたら、引き戸を開けていた。
翌日も、音楽室に行った。
翌々日も、行った。
気づけば、毎日行っていた。
夏の間だけの、ふたりだけの時間。
海に行って、夕立に濡れて、花火を見て。
日和の「本当の声」を、少しずつ聴くようになった。
日和は言っていた。「嘘をつくのが上手い」と、笑いながら。
澪は気づき始めていた。
クラスの太陽でいることが、日和にとって全部じゃないことに。
そして自分が——もうとっくに、引き返せない場所にいることに。
文化祭まで、あと少し。
日和がピアノを弾く、その日まで。
これは、沈まない太陽と、それを見上げる一人の女の子の、一夏の話。