あらすじ
「死にたくない。ただ、それだけなんだ」
名門・足利将軍家の傍系、阿波公方の次男として生まれた三郎(足利維直)。
彼には、前世で阿波の険しい山々と暴れ川に挑み続けた土木エンジニア、樫山三郎としての記憶があった。
時は戦国。中央の政争に敗れ、亡命先の阿波・平島館で「いつか京へ返り咲く」と夢想する父と兄。だが、維直には分かっていた。このままでは刺客に喉を焼かれ、戦の濁流に呑まれて一族もろとも歴史から消える未来を。
四歳の幼子は決意する。生き延びるためなら、泥にまみれ、卑怯と罵られようとも構わない。
前世のインフラ知識と、阿波の特異な地勢を掛け合わせ、彼は館の周囲を「不可侵の聖域」へと作り変えていく。
しかし、自分の身を守るために生み出した「肥料」が、「火薬」が、そして「地石の罠」が、皮肉にも乱世の怪物たちの目を引きつけてしまう。
「三郎よ、その知略で天下を獲れ」
「嫌です。俺は畳の上で死にたいだけだ」
これは、平穏を愛する臆病な天才が、迫りくる死の運命を拒絶し続けた結果、期せずして新たな時代を創り上げてしまうまでの記録である。