あらすじ
【一行あらすじ】師匠の小説に救われて書き始めた弟子が、なぜか自分だけ人気者になり、喜びきれないまま受け取ったものを返そうとする話。
【全体あらすじ】小説投稿サイトを読むことが、ほとんど呼吸になっている女子大学生・七瀬ユイ(ペンネーム)。
ある日、ユイはランキング外の長編小説に出会う。
読みにくい。
導入は重い。
恋愛要素もなかなか出ない。
それなのに、一度閉じても三十秒後にはまた開いてしまう。
作者は、まる助。
読者に優しい作品ではない。けれど、世界の作り方も、削る言葉の選び方も、物語に込められた熱も本物だった。
この人に、教わりたい。
そう思ったユイは、二千八百字の感想を送る。
返ってきたのは、たった二行。
「書くなら短い話を一本出してみてください」
その言葉で、ユイは初めて小説を書き始める。
師匠の助言をもとに異世界恋愛を書いてみると、なぜかユイの作品だけが読まれ始めた。
感想が増える。
ブックマークが増える。
ランキングに名前が載る。
うれしい。
ありがたい。
もっと書きたい。
けれど、ユイは手放しで喜べない。
自分をここまで書けるようにしてくれた師匠の作品は、今も静かなままだったから。
読まれることと、深く届くことは同じではない。
人気が出た弟子と、埋もれたままの師匠。
その差に悩みながらも、ユイは少しずつ気づいていく。
自分もまた、誰かに書くきっかけを渡していること。
そして、まる助から受け取ったものを、今度は自分の言葉で返したいということ。
人気者になってしまった弟子は、尊敬する師匠の前で迷いながら、それでも書き続ける。
いつか、あの二行から始まった全部を、ちゃんと返すために。