あらすじ
春になったら江の島へ』
小児病棟で働く看護師・黒崎初音は、高校の同窓会で、かつて密かに思いを寄せていた物理教師・岩田祐介と十年ぶりに再会する。東京の大学病院で働く初音と、現在は筑波大学の助教となった祐介。離れた場所で暮らしながらも、二人はゆっくりと心を通わせ、恋人同士になっていく。
ある日、初音は妹のように可愛がっていた小児患者・愛音の突然の死に直面する。看護師として患者にどこまで心を寄せるべきだったのか。儚く消えた小さな命を前に、自分の無力さに打ちのめされた初音は、深い喪失感から立ち直れずにいた。さらに祐介との間にも浮気疑惑によるすれ違いが生じるが、誤解が解けたことで、二人の心の距離は一層近くなる。
成田山でのデートの日、祐介は哀しみを抱え込む初音に寄り添い、彼女の喪失感を静かに受けとめる。その底知れぬやさしさと包容力に触れた初音は、愛音の死を受け入れ、看護師として命と向き合う力を取り戻していく。
「春になったら、湘南江の島春祭りに行こう」
そう約束し、未来を信じて疑わなかった二人。だが、その約束を果たす前に、交通事故が突然、祐介の命を奪う。
愛音の死を乗り越えた矢先、今度は最愛の人を失った初音は、悲しむことさえできなくなる。感情を殺し、異動となった外科病棟で機械のように働き続ける日々。祐介の死を受け入れきれないまま一年が過ぎ、初音は約束の地・江の島へ向かう。
祐介が愛した風景を辿るうちに、初音は、聞こえるはずのない祐介の声と、彼のぬくもりを感じる。封じ込めていた一年分の涙を流し、初めて祐介の死と正面から向き合った初音。彼女は祐介が残してくれた愛情が、失われたものではなく、これからを生きる自分の中に息づいていることに気づく。
深い悲嘆の果てに、それでも人は生きていく。
初音は祐介への愛を胸に抱いたまま、再び命の現場へと歩き出す。
大切な人を失った痛みを抱えながら、看護師として、ひとりの女性として、人生をもう一度歩き出す。
理不尽な喪失と悲嘆からの再生を描く、医療ヒューマンラブストーリー。