あらすじ
童話の呪いが人に宿る世界では、赤ずきんは物語を喰う側のようだ。
灰かぶりの踵を噛み砕いた夜は、指先の感覚がなくなった。人魚姫を嚥下した朝は、足裏からナイフの痛みが止まらなくなった。喰うたびに強くなる。喰うたびに、自分が誰だったのか分からなくなる。彼女の名前を知る者はいない。本人ですら。
殺しても無駄だ。能力者を殺しても、呪いは72時間で別の誰かに宿り直す。赤ずきんだけが、喰った物語を二度と再発させない唯一の存在。だから組織に使われ、裏社会に恐れられ、今夜も歌舞伎町の路地裏で骨の音を鳴らしている。
俺――神崎透は、そんなことも知らずに裏社会で「誘き出し屋」をやっていた。能力者をビルの外に出す。黒い車が連れていく。それで3万。自分が何に加担していたか知ったのは、自販機の前で缶コーヒーを渡した夜だった。
あの缶コーヒーの代金、まだ返してもらってない。