あらすじ
異世界に来て、最初に学んだのは「やはり自分には何もできない」という事実だった。
榊原優斗、二十歳。何にもなれず、何もできず、自分を納得させるための言い訳ばかりが上手くなった男。そんな彼が目を覚ましたのは、見知らぬ森の中。チート能力も、女神の祝福もない。あるのは、ひ弱な体と、磨き上げた逃げ口上だけ。
濁流に飲まれ、死を覚悟した彼を拾ったのは、紅い瞳の少女ソフィアだった。追われる身でありながら、自分を捕らえようとした敵兵にすら手を差し伸べてしまう、おっとりとして、けれどどこかが致命的にズレている聖女。
その先で出会うのは、銀髪の刺々しい少女エリシア。奇妙な三人の旅路は、けれど長くは続かなかった。
やがて優斗は、選択を迫られることになる。誰を取り、誰を手放すのか。差し出せるものなど、何ひとつなかった彼に、選ぶ資格などあるはずもないのに。
守る力なんて、最初から持っていない。それでも、見捨てたくない誰かが、確かにそこにいた。
これは、無様で、臆病で、何度も逃げ出そうとした男が、それでもこの手を離さないと決めるまでの――異世界での、ささやかな記録である。