あらすじ
白瀬ヨミは、世界を一人で観測している。
その事実に気づいたのは、クラスメイトが一人消えた朝だった。
正確には、消えたのではない。“観測されなかったことになった”。名前も、顔も、記録も、すべてが世界から排除される。だが、俺だけが覚えている。
つまりこの世界には、二つの観測が存在している。ヨミの観測と、俺の観測。そして、どちらか一方しか、現実を確定できない。
「お兄ちゃんだけ、ちゃんと見えるの」
ヨミは言う。
その瞬間、世界は収束する。俺以外の観測が、無効になる。クラスメイトが消え、街から人が減り、現実が単一の視点へと縮んでいく。
ヨミは、世界を“二人称”から“一人称”へと書き換えている。このままでは、現実はヨミ一人のものになる。
だから俺は、観測をやめない。
他人を覚え続ける。
名前を呼び続ける。
存在を維持し続ける。
それが唯一、世界を保つ方法だからだ。
だがヨミは、さらに近づいてくる。触れ、見つめ、認識を奪う。
「ねえ、お兄ちゃん」
ヨミは微笑む。
「どっちの世界にする?」