あらすじ
十二年の婚約を、たった一言で切り捨てられた伯爵令嬢リシェル。
「真実の愛を見つけた」と夢見るように語る元婚約者ルシアンは、彼女の想いも努力も、そして“本当の好み”さえも見ようとしなかった。
形式だけの婚約。
甘い菓子を好むと“思い込まれた”ままの関係。
彼に合わせ続けた年月は、あっけなく終わりを告げる。
失意の中、リシェルは自らの名と過去を捨て、海洋国家ヴァルディオン帝国の港町ルメリアへと逃れる。
自由は孤独と隣り合わせ。
それでも、誰にも媚びずに生きられる世界は、彼女にとって救いだった。
……はずだった。
霧深い港で出会ったのは、月光を宿した銀髪の男。
冷たく鋭い瞳で、彼はリシェルの“完璧な微笑み”の裏側を一瞬で見抜く。
「無理に笑うな。お前の目は、今にも零れ落ちそうなほど凍えている」
その言葉を境に、彼女の逃避行は思いもよらぬ方向へと動き出す。
冷徹なはずの男が見せる、静かで深い執着。
そして、リシェル自身も知らなかった“運命ではない何か”が、静かに形を変えていく。
過去を捨てた令嬢と、海霧に潜む銀の皇子。
二人の出会いが、凍てついた心を溶かし、物語を大きく揺り動かしていく――。