あらすじ
高校の新学期、花岡遥は、水森葵という少女と出会う。
「月が綺麗ですね」「雨がやみませんね」――そんな遠回しな言葉を好む彼女は、まるで感情を言葉に閉じ込めるように、軽やかに遥との距離を縮めていく。
しかし遥は、言葉にすることをどこかで拒んでいた。
酒に溺れる父と、幼い頃に亡くした母。
誰にも触れられたくない過去を抱えながら、「伝えないものは存在しないのと同じ」だと、自分に言い聞かせて生きてきた。
そんなある日、葵は遥の腕に残る傷に気づく。
踏み込みすぎない優しさを保っていたはずの彼女は、その一線を越えてしまう。
やがて、連絡先を交換した夜。
押し込めていたものが溢れ出した遥は、初めて誰かに助けを求める。
その相手が、水森葵だった。
けれど――
葵自身もまた、誰にも見せていない過去を抱えていた。
明るく、軽やかに見えるその言葉の裏にあるもの。
誰かに寄り添うことでしか、自分を保てない理由。
互いの傷に触れてしまった二人は、少しずつ相手を知っていく。
そして同時に、自分にはないものを持つ相手を、どこかで羨み始める。
言葉にできなかった想い。
言葉にしてしまった痛み。
すれ違いながらも、それでもなお――
遠回しな言葉の先で、二人は「本当の気持ち」に辿り着こうとする。